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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「落下の解剖学」
対する妻は、「私はセックス無しでは生きられない!」と言います。知性的ですが、地味な容姿のサンドラからこの言葉が出ると、とても生々しい。多情なのでしょう。夫婦はセックスレスだったのかと思います。私はサンドラが異性として初めて好きになったのは、夫だと思いました。自分には無縁だと思っていた普通の家庭、妻として母としての人生を送るのだと、きっと結婚当初は希望に満ちていた事でしょう。
しかし、妻として母として、理想とは違う方向に家庭は進み、おまけに息子は事故で障害を追う。経済的な大黒柱となってからは、段々と夫に対して無自覚に尊大になっていたのでは?。端的なのは、ドイツ人の妻とフランス人の夫は、家庭では共通の第二外国語である英語で話す。妻は夫婦は対等だからと、お互いが歩み寄っていると思っていますが、夫は「ここはフランスだ!」と言い返します。往々にしてある、このボタンの掛け違い。これを掛け直して整えて行く事が、夫婦の厳しさであり、醍醐味なんだよ。ここで片方、もしくは両方が降りてしまえば、離婚しかありません。
ダニエルを演じる、ミロが素晴らしい。澄んだ眼差しから、公平に両親を見つめる彼。何が事実なのか、必死で記憶を手繰り寄せながら、自分に出来る精一杯の行動を取ります。両親の夫婦としての側面に惑わされず、自分の親としての敬意を保ち続け、息子が両親を見守っているのです。ダニエルの聡明さと純粋さに、何度も涙ぐみました。障害に負けず、こんな良い子に育っているのは、両親ともが、頑張ったからじゃないの?私は強く二人に、そう言いたい。
ザンドラ・ヒュラーも、超素晴らしい!何だか得体の知れない人ですよ(←褒めている)。この得体の知れなさのお陰で、真相はどうなのか、最後まで展開に気を抜けませんでした。
夫婦の深淵に迫った、知的で繊細な感性を持つ作品です。ミステリー仕立てで現代の夫婦関係を映しながら、普遍性を感じさせる脚本が、本当に秀逸。夫殺しの嫌疑をかけられた妻という、スキャンダラスなプロットを主軸に据えながら、苦いけれど、血が通う作品です。カンヌで賞を取った、ワンちゃんの好演も見ものです。
03月01日(金)
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