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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」
聡明なモリーは、自分も殺されようとしている事を、知っていました。甘んじて受けていたのは、夫の良心に賭けていたのじゃないかな?命懸けで夫を愛していたのか?それだけではないと思います。この頭の軽い夫は、薬の中身は妻の糖尿病の特効薬のインスリンだとは信じていない。「一瓶全部注射しろ」と言われているのに、妻には半分だけ打って、半分は自分が飲む。それでも戦う事も助ける事も出来ないのです。
モリーはアーネストの「顔が好き」で、伴侶として選びました。他の女性たちと似たり寄ったりの理由です。でも共に家庭を育み、アーネストの性格を熟知しているから、自分の身体を使い、この事件の解決の突破口にしたかったのじゃないかな?彼女は賭けに勝ちました。でも試合に勝って、勝負に負けたんだよ。アーネストの良心を目覚めさせたのは、妻の存在ではありませんでした。モリーは家族としてだけではなく、夫としても、アーネストを愛したかったはずだと、彼女の瞳から窺える、深い哀しみから感じました。
人を食ったような趣向で(面白かった。スコセッシも出てくる)、後日談が語られますが、えぇ!と、罪の軽さにまたびっくり。FBIが出てこようが、命は犬より少し重くなった程度で、白人よりずっとずっと軽かったんだね。
デ・ニーロは、最後まで全然怖くありません。だって悪意がないのだから。そこが一番怖いのですけどね。怖く感じさせちゃダメな役柄なので、やはり好演でした。レオは今回全然カッコ良くないです。顔だけの男で、思慮が浅く知恵も足らない、でも悪党でもなく、妻子を思う気持ちは真実です。なのに、悪事に手を染めることに、全く逡巡がありません。その曖昧さが、すごく上手くてね。またオスカー候補なるかな?リリー・グラッドストーンは、思慮深く教養があり、頭も回る、聡明なモリーを演じて、出色。静かで慎み深い様子からの深い哀しみが、私の胸にも沁み込んできました。彼女はオスカー候補になると思います。ジェシー・プレモンスは、脇役ながら、着々とキャリアを積み、今回もそれなりの大きな役で、偉くなったなぁと感慨深かったです。
面白いかと言えば微妙ですが、観る価値は充分です。サスペンス仕立てにした方が集客力はあったでしょうが、敢えてハリウッドの大監督と大スターが、別の視点から描いた事に、深い意義があると思います。知らなかった史実で、私的には大変勉強になりました。見聞が広がったかな?長いので、二週目から一回上映の劇場も出てきているので、ご覧になるなら、お早めに。
10月23日(月)
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