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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「怪物」
依里は確かに虐められていました。湊以外の男子です。小柄で愛らしい容姿。仲良くしているのは女子ばかりの依里。「異物」として、特定の男子から標的にさえていました。それを知りながら、他の子供たちも大人には言えない。自分が次の標的になるかも知れない不安ではないでしょう。女子たちは、依里を庇っていました。依里が女の子になりたい男子、男の子が好きな男の子、ではないかと、感じ取っていたんじゃないか?クラスメートの口からは言えない、繊細な事だと、級友たちは思っていたのではないかな?
依里の父親(中村獅童)は、多分アルコール依存。依里の性癖を知っていて、その事を「あいつは怪物だ」と言う。「普通にしなければ」と、息子を折檻する。母親が出て行った家庭では、依里はなす術もなく、虐待されるだけです。「僕が普通になったら、お母さん帰ってくるんだって」。違うよ、多分違う。依里のお母さんは、アル中で多分DVもあった夫が嫌になったんだよ。自分の家庭を他人事のように話す依里を観て、泣きたくなりました。
苛立ちの矛先が、担任の保利に向かっていたと思います。二人だけではない、他の子供たちの嘘も、何故解ってくれないのか?との想いかと感じます。横文字で読ます作文は、二人の叫びが書いてあったと想像しました。真意を汲み取ったから、保利は「先生が悪かった!」と言ったんじゃないかなぁ。
湊の父親は、浮気相手と旅行中に事故死。早織は湊には一言も憎悪を漏らさず、命日ではなく、亡き夫の誕生日まで祝う。「お父さんのような男の人になってね」。「シークレット・サンシャイン」のチョン・ドヨンみたいだと思いました。本当に愛されていたのは私たち。それを証明するのは、湊を立派に育てる事だと、多分信念のようになっている。保利がビル火災時に、その近所を恋人と歩いていただけで、ビルの中のキャバクラに居たと噂が広がる、口さがない土地柄。同情から早織を見守るだけではなく、面白半分に見る人もいるはずです。早織はそれを知っている。学校での冷静さを欠く態度も、ここからきているのでしょう。
依里と親しくなっても、「他の子がいる時は話しかけないで」と依里に告げる湊。依里に友情以上の感情を抱いている自分に戸惑っている。それが情緒不安定な態度に出ているのです。もちろん、母には見当が付かない。湊も知られてはいけないと思っている。「夢でお父さんが、お母さんに感謝してるって言ってたよ」と、優しい嘘を付ける子です。この感情は、母の期待を裏切ると知っている。
あれこれ騒動の本当の顛末を回収していくと共に描かれる、森の中の廃車した電車の中での、二人きりの遊び。素直で子供らしく、少しセクシャルな様子も瑞々しい。その楽し気な様子こそ、本来のこの子たちの姿なのでしょう。
自分は保利について、嘘を付いたと校長に告白する湊。「そう、先生と同じね」と言う校長。それは孫を轢いたのは夫ではなく、校長だとの噂の真相だと思います。ここからの田中裕子の演技が、本当に気持ち悪い(褒めてます)。
このシーンやプロットを褒めている人が多いのですが、私はずっと怒っていました。極めつけは「普通に手に入らないのなら、幸せじゃない」。意味が解りません。幸せは頑張って手に入れるものです。普通にしていて、向こうから転がってくるもんじゃない。
この人は「学校が好き」なのであって、「児童が好き」なのではない。教育者として失格だと断言したい。保利が濡れ衣だと知りながら、「あなたが学校を守るのよ」と、辞めさせる。守ったのは醜聞からで、子供たちの心ではない。最初の話し合いの時、きちんと保利から事情を聴き、早織の話にもっと心を向けたら、また違った結末だったのにと、残念でなりません。CMにも使われている、「怪物だーれだ?」の言葉。人が誰でも「怪物」になり得るとの解釈が多いようですが、私は怪物はこの校長だと思います。彼女以外、誰一人、この作品に怪物なんかいない。
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06月06日(火)
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