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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「ロストケア」
斯波の父は、息子が判らなくなる前に、殺してくれと息子に頼んでいました。大友は嘱託殺人なら、情状酌量もあるのに、何故自首しなかったのか?と問います。「バレなかったからですよ」と、冷笑する斯波。変死なのに、上辺だけの検視しかしない。他の41人もそうだったのでしょう。介護の必要な老人は、調べるに値しない命と、世間が言っているのです。
大友の母(藤田弓子)は、娘に迷惑をかけたくないと、自ら施設を探し入所。彼女にも認知の症状が表れ、当惑する大友。再々母の元を訪れる大友は、母の何気ない言葉から、意を決して、既に死刑の決まった斯波に対峙します。
検事の大友ではなく、母一人子一人で育った大友秀美としての、心の底からの吐露に、斯波の心が大きく揺れる。検事と犯人として向かい合った二人は、実は合わせ鏡のような関係だと、二人を二重写しにする画面が語ります。斯波の殺人は救済などでは決してありません。斯波だけではなく、大友にも通じる父親への感情は何か?ここには敢えて書きません。苦労も多い生い立ちだったろう「この子たち」に、背負わせるには、あまりに辛く哀しい感情です。
美恵は法廷で、「お父ちゃんを返せ!」と叫ぶ。誰が観ても疲れ切っていた彼女。それでも、父と娘にしか解らない、親子の歴史があるのです。洋子は斯波の行為を「感謝している」と言い、新たな人生へ一歩踏み出します。その両方の感情を、作り手は寛容し、抱擁していたと思います。その上で斯波の殺人は、救済ではなく、犯罪だとも明言していたと、私は思います。
父も昨年の秋に95歳で亡くなりました。私が穏やかに父の死を迎えられたのは、長年手厚く父をお世話して下さった後妻さんのお蔭だと、改めてこの作品を観て感謝しました。母も憎く思う事は多々ありましたが、一度たりとも、早く死んでしまえとは思いませんでした。そう思わなかったことが、私の救いになっているのだと、この作品を観て痛感しています。病気や老衰で親を見送るのは、実は幸福な事なのですね。
認知症で、時々記憶が曖昧になる大友の母は、膝で泣き崩れる娘の頭を、よしよしと言いながら撫でる。自分が介護されるようになっても、です。娘は、例え病を得た母であっても、心が満たされるのを感じたでしょう。斯波の父親が、やはり認知症で記憶が曖昧な中、ひらがなばかりで綴った息子への手紙も、私は決して忘れません。私も亡くなる前に、必ず息子たち三人に、同じ事を伝えたいから。
観ながら何度も啜り泣きしました。今も書きながら、思い出しては泣いています。厳しい介護の現場、連続殺人を描いて、最後には観客が抱擁され、救済される作品でした。末筆ですが、介護関係の従事者の方々へ、心から激励と感謝を申し上げます。今年一番のお勧め作品です。
03月27日(月)
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