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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「イニシェリン島の精霊」
警官の息子のドミニク(バリー・コーガン)。軽度の知的障害を思わせる彼は、自分の気持ちに忠実です。酒が飲みたい、煙草が吸いたい、女性と話したい、そしてシボーンに恋している。当たって砕けろと、シボーンに告白しますが、「それは無理なの」と、優しい笑顔で返され、納得して引き下がります。優しさと敬意に満ち、美しい。私がこの作品で一番好きなシーンです。

ドミニクは平易な言葉しか発しませんが、内容は的確。彼からは悪意は全く感じません。子供も夫婦も若者も、誰も居ない様な島で、自分に正直に生きています。そして、自分と同じく悪意のない人だと思っていた、パートリックの変貌を指摘して詰る。コルムを含む島民の悪意と野次馬根性が、純朴だったパートリックにも、悪意を持たせてしまうのです。

島から抜け出し、ロンドンに働きに出るシボーン。きっと両親が健在なら、もっと早くに逃げていたでしょう。頼りない兄を、一人にはしておけなかったのですね。しかし、まず自分を守らねば、兄も守れないのです。シボーンは正しい。本当に孤独になってしまったパードリックに起こった、その後の出来事。強気一辺倒だったコルムに反省を促したのは、コルムもまた、自分の身の上の孤独を噛み締めたからだと思う。島民全てが顔見知りでも、本当に心を許せる人がいないのです。

悪意と哀しみが心を満たすとどうなるか?狂気でした。分別盛りのはずの、いい年をした、おじさんの喧嘩は、アイルランドの内戦を揶揄しているのでしょうね。監督も俳優も、皆アイルランド人で集結しているのは、そのためですね。

作品、監督、脚本、ファレル、グリースン、コンドン、コーガンは、全てオスカーノミニーです。
ファレルはね、私は昔は生理的にダメだったのよ。うんうん。それを覆したのは、私の愛するヨルゴス・ランティモスの「ロブスター」での、役作りのため15キロ太り、情けないキャラでした。あれからアレルギーが取れたと言うね、彼のファンからは殺されそうなんですが、あれよりもっと今回が好き!愚鈍で苛つかせるも、どこか愛嬌があり、放っておけない母性愛を刺激するパードリック。私はシボーンの心で観てしまった(笑)。

グリースンは強面の外見から想像し難い、繊細なコルムの内面を好演。モテ男に充分観えます!コンドンは素敵だったなぁ。下手な芝居だと、怒りばかりが目立ち、シボーンの賢さや優しさが、かき消されたはずです。コーガンは、私は不敵で不穏な彼しか記憶になかったので、ある意味無垢なドミニクを、びっくりする程の好演でした。「ギルバート・グレイプ」のレオを思い出したくらいです。

警官に殴られたパードリックを介抱し、馬車で送るコルム。絶交宣言後です。途中で降りるコルム。目の前には、二つに分かれた道が。違う道をコルムが行くことを、パードリックが尊重していればな、と思います。


ラストの二人のすれ違いの答えは、恋に似ている。追えば逃げるし、逃げれば追うし、です。「愛憎」とは、恋と戦いなのかも。オスカーの発表が、とっても楽しみです!

01月29日(日)
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