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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」
えっ!何で?大人の女の度量を見せつけるのかと思ったのに、こんな小娘に泣かされるなんて。それもフランシス・マクドーマンドが!(ここ重要)。そんなに老いる事、独りでいる事に葛藤があったんだ。私はゼフィレッリが付いていったのかと思っていましたが、クレメンツがお持ち帰りしたんだね。成る程。友人夫婦が紹介してくれたクリストフ・ヴァルツの方がお似合いなのに、美少年が良かったんだね。成る程。多分老いに向かう女みんなが、理解と同情を寄せたと思います(私は現実的だから、ヴァルツを選ぶけどね)。

そして三話目。祖国に追放されたフードライターのライト(ジェフリー・ライト)のお話し。美食家の署長(マチュー・アマルリック)のお抱えシェフであるネスカフィエ警部(スティーブン・パーク)の記事を書くため、署長の元に。しかし署長の息子のジジが誘拐されます。

このパートは、最初からユーモアある作りなのに哀しい。ライトはテレビの司会者に「ニグロ」と呼ばれても平然としている。勿論表向きでね。1975年は、まだまだそうだったんだな。ネスカフィエが警部なのは、そうしないとお抱えに出来ないからだと思いました。本職はあくまでシェフだと思う。傲慢だよね、署長。

ライトは黒人でゲイ。当時は二つの差別を背負っている。賢い息子とネスカフィエの身体を張った頑張りで、息子は無事救出。さらっとしたライトの原稿に、「これだけか?」と問う編集長。他にもあったのですが、入れたくないライト。書けないよ、初めて食べる毒の味の事なんて。死ぬかもしれないのに、ネスカフィエには、食べる選択しかなかったんだもん。

アジア系の「フレンチのシェフ」ネスカフィエは、当時のフランスでは勝ち組のはず。断って自分がポシャれば、アジア系に次はないはず。祖国を追われた自分を、どこにいても異邦人だとライトは言う。そして黒人でゲイ。ネスカフィエの言葉の奥に、自分との共通項を見出したから、ライトはネスカフィエに、「解るよ」と答えたんじゃないかな?

ネスカフィエもライトも、シド二ー・ポワチエなのよ。自分たちは礼儀正しく教養があり、白人に都合がよく、付き合ってもいいよ、と思える差別待遇者。自分たちの地位の確立のため、複雑な気持ちを押し殺して今の状況を守らなきゃいけない。ライトはその気持ちを、「あんたなんかにゃ、解るまい」の人々には、知られたくなかったのだと思います。

それでも「入れろ」と言う編集長。そう言えば、サゼラック(オーウェン・ウィルソン)の書いた、編集長の愛するアンニュイ(架空の町)の街のレポートも、表の風光明媚の美しさは皆無。記事は裏の闇社会ばかり。それでも編集長は文句垂れながら、OK出してました。

全編ヘンテコなユーモアで包み、凝った美術でかく乱させながら、眼差しは心に葛藤を抱えた人々の寂しさや侘しさを、温かく見守っていたのですね。そう思うと、楽しさだけではなく、包容力のある優しさを感じます。ゆるゆるなのに、芯が強い。「フレンチ・ディスパッチ」は、さぞ気骨のある雑誌だったのでしょうね。

残念なのは、雑誌を映画化したような作りなので、膨大なセリフと字幕で、目と耳が追い付きませんでした。肝心の俳優の演技と美術も、見落としがあったかも?できればもう一度観たいなぁ。

02月13日(日)
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