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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「ミナリ」
そしてスンジャ。この人が何を隠そう、私の母方の祖母そっくりなのです。気が強く苦労もしているのに、泣いた姿を見たことがない。韓国は長らく西洋医学を受診するにはお金がかかるため、漢方薬が発達していました。母方の生業が漢方医だったこともあり、作中出てくる煎じた漢方薬を、私も虚弱だったので、子供の頃もう何年も飲まされました。苦いの何の。でもあんなに嫌だった煎じ薬が画面に現れた時、香り迄思い出し、懐かしさと言ったらありません。
デビットにお土産は?と言われ、花札を差し出すお祖母ちゃん。うちのばーちゃんも好きでしたよ。私に母札を教えてくれたのも祖母。私は韓国語がわからないのですが、祖母もスンジャのように、きっ品の無い煽り言葉を言っていたと思います。そして極めつけは、プロレスが大好き(笑)。もう大興奮しながら観ていました。自分の贔屓のレスラーが防戦一方になると、お決まりの言葉は「このレフェリーは金貰っている!」(笑)。今解った。私がプロレスが好きだったのは、祖母の影響なのです。
アンとデビットには「お祖母ちゃんらしくない」と不興を託つ、お茶目でワイルドなスンジャですが、字が書けないスンジャと違い、私の祖母は両班の出で、女学校には女中さんと馬車で通っていたとか。なので、祖母の家には近所の在日の人が、ひっきりなしに来ては、手紙を代読、代返していたのは記憶しています。この事を祖母が私に自慢した事はなく、自分の子供や他人に自慢したのは、祖母とは仲の悪かった私の母です。これも今気が付いた。ばーちゃんの方に似て良かった(笑)。
生い立ちが全く違うのに似ているのは、血の気が多い国民性もあるし、氏より素性なんじゃないかと思いますね。それから家事もしっかりしていたし、私は祖母が好きでした。お祖母ちゃんらしいって、何かしら?揺ぎ無く孫を肯定し愛することじゃないかしら?それならスンジャも同じです。だって煎じ薬を捨てた器に、おしっこ入れてお祖母ちゃんに飲まそうとしても、庇ってくれるんだもん!
スンジャから聞き、デビットを説教する場面で、垂直に万歳の格好で立たされるデビット。これはお仕置きの時のポーズだと聞いた事があります。父は椅子に座り腕組みし、妻・母・娘は後ろで立って神妙に見つめる。家長はジェイコブで有ると言う表現です。家族で一番の年長者である祖母に、孫が狼藉を働いたとは、儒教の精神に則れば犯罪級(多分)。家長の面目丸つぶれのジェイコブは、デビットに木の枝を取って来いと命じます。これはそれで叩くのです。私はされたことはないですが、躾の一環として、本人に枝を取ってこさせて、それで叩くのだとか。夫は自分の父親にそうされたらしいです。そしてデビットが持って帰って来たのは、木の弦のような細い物(笑)。スンジャが「デビットの勝ちだね」と言うと、拳を収めるジェイコブ。「お前、父親を舐めているのか?!」と辺り構わず物を壊す父親も多かったあの時代(こんな風に書き連ねていると、韓国の男は本当にろくでもないな)、私は頼りなくてもジェイコブは、やはり優しい人だと思いました。
韓国人ばかりが出てくる中、重要な白人として登場する人物がポール(ウィル・パットン)。ジェイコブ一家が韓国人だと判ると、「僕は朝鮮戦争に行ったんだ」と答え、一家の手伝いをしたいと申し出ます。ポールは材木を十字架のように背負い、辺りをしょっちゅう歩いているので、村人には変人で通っています。彼が善意の人であるのは、ジェイコブ一家への接し方で疑う余地はありません。思うに戦場に行った事が、繊細なポールの心を傷つけてしまったのでないか?十字架を背負う事も、ジェイコブ一家に力を貸す事も、彼にとっては贖罪なのでしょう。ベトナムや湾岸での戦争で、病んでしまった元兵士は描かれますが、朝鮮戦争だってそうだったのだと、監督は言いたかったのだと思いました。当初は変な人だとポールを毛嫌いしていたモニカですが、彼女も敬虔なキリスト教徒であることから、次第にポールに信頼を寄せます。
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03月30日(火)
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