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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「愛しのアイリーン」
嫁のアイリーン。貧村の長女に生まれ、家族のために金で買われる花嫁を希望。天真爛漫な可愛い子です。しかし、初体験は愛する人とと、岩男に身を任せない。何たる我がまま(笑)。日本語が話せなくて、寂しくて入り浸るフィリピンパブの、「月はどっちに出ている」のルビー・モレノみたいなマリーン(ディオンヌ・モンサント)に、それはあかんよ、と窘められる。まだ子供なのです。女衒の塩崎(伊勢谷友介)から、売春婦と同じと言われて、猛反発するアイリーン。少しずつ岩男に寄り添っていく彼女を見ていると、岩男が嫌なのではなく、岩男への愛を確信してから、結ばれたいのだと感じました。

それが急転直下、塩崎絡みの一大事で、お互いを確認しあい結ばれる二人。それが暗雲を呼び込むなんて。前半のコメディタッチとは裏腹、この前後から血生臭いバイオレンスタッチに。罪の意識から、男としての暴力的な部分が覚醒する岩男。あの優しかった面影はなく、アイリーンの家族への仕送りやセックスで、札束を投げ捨てる。何たる屈辱。夫や姑から総攻撃されながら、実家への電話では、「みんな優しくしてくれる。心配ない」と母に告げます。涙が出ました。

連れ合いに別の異性の影が見えた時、猛烈に嫉妬する岩男とアイリーン。正に愛憎と言う言葉がぴったりです。「どうして優しくしてくれないの!」と、号泣するアイリーン。泥沼化する夫婦生活で、ありったけの思いをぶつける若いアイリーンに対し、救済の術がわからない岩男。年齢差、夫婦の背景から考えて、アイリーンに岩男を理解しろと言うのが無理。しかしこの作品の偉いところは、屈折・鬱屈する岩男の気持ちが、こちらに届くところです。

アイリーンを娶らなければ、こんな羽目にはならなかったと思っているのですね。それでも彼女を愛している。その複雑な感情が、岩男を暴力的なセックスで妻を支配しようとする、下衆な男にしてしまっている。暴力で哀愁を感じさせるなんて、ヤスケン、怪演にして快演です。

こんな汚辱にまみれた展開で、どんなエンディングに持っていくのかとハラハラしていましたが、これがお見事な展開。私は常日頃から、子供が大人になる過程で、親が子供の人生の主役になっちゃいけないと、思っています。岩男が木に彫ったのは、何なのか。ツルは何を持って、アイリーンと愛する息子を分かち合ったのか?そして人生は続く、と言うことか。破天荒な内容なのに、感動すらしてしまった。

主要三人以外にも、愛子、塩崎の、世間的には理解されない人たちの孤独を浮かび上がらせて、秀逸に感じました。強かで俗っぽいけど、フィリピーナの生き様を達観しているマリーンも良かったです。

男の人は死ぬ時多分、妻か母親の名前の二者択一ですよね。息子たちが私の名前を呼んだら、それは悲しい事なんだと、この作品を観てつくづく思いました。でも私が死ぬ時は、息子の名前を呼んだりしちゃうかも?(笑)。

09月26日(水)
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