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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」
小遣い稼ぎもままならなくなり、アシュリーからの食べ物が手に入らなくなり、モーテルの滞在費をボビーから取り立てられたヘイリーは、何をしたか?お決まりの事です。でもここで思いを巡らせて欲しい。彼女は性的サービスが嫌で、ストリッパーをクビになったのです。私はひとえにムーニーのためだと思いました。やり方は間違っています。世間は短絡的な行動だと思うでしょう。でも娘に食事と寝る場所を与えてやりたい、この知恵のない若い母親の切羽詰った気持ちを、同じ母として子育てしてきた私が、理解してやれなくてどうするのか。私はヘイリーを断罪する、そんな情けない母親ではありません。
観ているうち、監督がこのモーテルの人々にこの上なく暖かい眼差しを送り、社会へ厳しさ目を向けているのを確認します。ヘイリーもアシュリーも母子家庭。ジャンシーは母親が15歳の時生んだ子で、今は祖母が育てている。父親や祖父は、影も形も出てきません。このモーテルを出て行けたのは、父親のいる子でした。日本も同じ状況なのは、ご承知の通り。夢の国ディズニーワールドの隣で、繁栄とは無縁にもがく人々の事を、どれ程の人が考えた事があるのか?とりわけ子供たちの事を。救済の仕方を考えるのは、社会の責任だと語っていると思います。
オスカー候補になった、デフォーが素晴らしい。他人の生活に踏み込むのは、とても厄介な事です。時には悪態を付かれても、彼らにルールを守らせる。それは、ここに居られなくなったら最後、どこにも居場所がなくなるのを、知っているからです。彼の本心を垣間見せる、不審者から子供たちを守るシーンが秀逸。仏心を隠す様子が、滋味深い。
今のままでは、ヘイリーとムーニーの末路は悲惨です。ラストに起こる出来事は、ムーニーの幸せな子供時代の終焉なのでしょう。たった6歳です。ジャンシーに手を引かれ、夢中でディズニーワールドを駆けるムーニー。ジャンシーの世間に対する怒りに満ちた表情が、辛い。それは、彼女たちの母や祖母では、決して連れて行ってもらえない場所。でも子供の特権は希望です。親の轍を踏まず、自分の力でこの場所に来られるようになりなさいとの、監督からのエールと取りました。
虐待が何故起こるかと言うと、私は母性や父性の欠如だと、思うのです。情緒的に難しい人がいるのは、事実。ヘイリーはそれは充分に育っている。引き離す事が、本当に二人の幸せなのか?二人が共に暮らせるようには、急がば回れで、ヘイリーを社会人として、教育しなおすべきだと思いました。この子は娘のためなら、きっと頑張ると思う。時間的に難しい事だと思います。でもそれを考えてこその福祉じゃないのかなぁ。
この作品の何が素晴らしいかと言うと、本来なら蔑まれても仕方のないような日常を映しながら、誰も責めない。観客にどうすれば、この人たちのためになるのか?と、考えさせる事。本当に色々考えました。まだ捕らわれています。監督は是枝監督のファンだそうで、子供たちのスクリーン栄えの素晴らしさは、そこから来ているのでしょう。是枝監督が透明感なら、ベイカー監督は逞しさです。現在私の今年のNO1候補です。
05月20日(日)
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