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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「ミス・シェパードをお手本に」
実の母は介護施設に入れながらも、ミス・シェパードの世話をするのは、息子として罪悪感があったでしょう。彼が息子の顔を忘れた母の元へ通い続けた原動力は、ミス・シェパードの存在ではなかったか?そして、悪態つきながら元気いっぱい、人としての気高さを失わないシェパートの姿は、愛はあっても情けをかけられない母への、詫びではなかったのかな?「僕はいつ出て行ってくれてもいいんだよ」と言いながら、何くれとなく世話をする、腐れ縁の男女ならぬ、母と息子のようなベネットとシェパード。
シェパートの死を発見したのが自分以外の人で、「何で僕じゃないの?」と、不満を漏らすベネットに、ホロッとした私。惰性で世話をしていると、自分で思い込みたいのでしょうが、ちゃんと情が湧いていたのを自覚したはず。でも彼女の人生で、感謝の意を示したのは、きっとベネットだけだと思います。
不満もあります。シェパードの背景の描き込みが、ちょっと雑です。事故の種明かしがあっけないし、才能あるピアニストが、何故信仰の道に走ったのか、見落としているかもしれませんが、描かれていませんでした。神への忠誠を誓うため、生甲斐のようなピアノを辞めてしまうのは、かなりファナティックなので、彼女の元々の気質を、それで表しているのかも知れません。
貴婦人や知的で剛健な老婦人が似合うマギー・スミスが、腐臭を漂わせながら、愛嬌たっぷりに、嬉々と演じていて、絶品です。ジェニングスも、飄々として、喜怒哀楽を見せない演技の中、しっかりとベネットの心情を伝えてくれて、好演でした。
もう一つ不満が。やっぱりタイトルは違うでしょう。シェパードはお手本にしたくないもん(笑)。実は至近にお手本にしたいお爺ちゃんがいるのです。「年行ってまっさかい、何もわかりまへんねん。耳も目ぇも悪うてなぁ」「そやから、ちょっとお願いしても、よろしいか?」と言われて手伝うと、「ありがとう、ありがとう、助かりましたわ」。こう言われると、こちらは使われているのに、年寄りに良い事をしたと爽やかな気分で、徳積した気分となる。そしてとどめの一撃は、「あんた、ほんまにええ人や」と笑顔。すんごい破壊力です。「またいつでもどーぞ」と、必ず言いますよ(笑)。そして実のところ、すごーく賢くて、何でもわかっているんです、このお爺ちゃん。
ベネットの成功も、シェパードの世話で徳積したのかも?(笑)。ミス・シェパードも、ベネットのお蔭で、老いの道行きが良き色に彩られたのも、人徳かも?人生は神のみぞ知る、捨てたもんじゃないと、思わせる作品です。
01月07日(土)
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