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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「湯を沸かすほどの熱い愛」
一浩は若かりし頃に両親を亡くしています。それが鮎子を押し付けられて、断れなかった要因でしょうが、一番は双葉がしっかりしていたから。その愛情を妻としてではなく、母のように受け取っていたのでしょう。「お前たちが嫌でいなくなったんじゃないんだよ」。この台詞は、本音です。それが言えるのは、双葉は何があっても、最後は自分を見捨てないと思っているから。これは妻への感情ではなく、母への感情です。妻がしっかりし過ぎると、ダメなんだなぁと、私より一回りくらい下の夫婦でもこれかと、ため息でした。

一浩は入院した双葉の見舞いに行きません。娘たちに様子は必ず聞くのに。弱っている双葉を観るのが辛いのですね。でもなぁ、これもダメなのよ。夫なんだから。一人ひっそりと「死にたくない・・・」と咽び泣く双葉が不憫で、ここも共に泣きました。死ぬ間際まで残る人のために奔走する双葉ですが、これが彼女の本音なのです。でも訴えなきゃいけないのよ、双葉も。私を抱きしめてと。あの夫じゃ頼りないけどね。子供はしっかり育てたけど、夫は育て損ないましたね。でもこれも良し悪しじゃなくて、日本的な夫婦の形としては、有りなのかも。

双葉には秘密があって、それがわかった時に、何故こんなに与える母性に恵まれたのか、腑に落ちました。周囲に愛を与え続ける事で、彼女自身が救われたのでしょう。愛を与えれば愛が返ってきて、自分に向ける相手の笑顔は、彼女の栄養となったのでしょう。松阪桃李のヒッチハイカーは、私はいらないプロットだと思いました。あそこまで、スーパー母ちゃんにすることはなかったと思います。

観る前は、下町の銭湯の女将さんなんて、合っていないと思っていた宮沢りえですが、これが絶品。全く違和感なく、下町の肝っ玉母さんでした。この役柄、変に熱演されると暑苦しく、拒絶感が生まれたかも知れません。正し過ぎる人は、しんどいのです。それを彼女が本来持つ透明感や美しさが、上手く役柄と混ざり合い、とても素敵な、取り分け女性に共感を持たれる女性像を作り出していたと思います。

オダギリジョーも飄々として、ちょいいい加減だけど、許してしまう夫を好演。鮎子役の伊東蒼ちゃんも好演でした。でも宮沢りえ以上に好演だったのは、杉咲花。母親の愛情を無条件に享受できた、おっとりした様子から、数々の、この年頃に子には壮絶な試練を乗り越え、成長するまでが、こちらにも確実に伝わる演技です。あどけない笑顔もとても可愛いのですが、泣く表情が本当に可哀想で、この子が泣く度に一緒に泣いていた気がします。花ちゃんの演技あってこそ、双葉の存在がより際立ったと思います。

安曇ちゃん、一番最後まで双葉に寄り添ってくれて、ありがとう。あなたのお蔭で、双葉の短い人生は、豊かで花やいだ人生になったと思います。全てのお母さんに捧げる作品。

11月12日(土)
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