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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「永い言い訳」
大宮家は、子育てや家事は元より、とにかく陽一が子供以上に妻を恋しがり、劇中泣きっぱなし。その様子が大の大人なのに、いじらしくて。お父さんがこんななので、上の子の真平は、自分がしっかりしなくちゃと、泣くに泣けない。そして繊細な息子の心は父には伝わらない。そして息子も、意地を張って伝えたくない。この父子、元々そりが合わなかったのだろうとは、想像に難くない。水と油だもの。二人の橋渡しを、潤滑油になっていたのが、ゆきでしょう。
この両家の風景は、とてもありふれたものです、それ故、家庭において、如何に主婦の存在が掛け替えがないかも、改めて痛感します。
今までの西川作品は、盛りだくさんの思わせぶりな描写で、あちこちで議論を沸騰させたものですが、この作品は素直に行間を読ませる作りで、訝しむ必要なく、胸にストンと落ちてきます。今までの策士的な面影は、今回に限りありません。子供たちの可愛さに、監督も優しい気持ちになったのかも?私はこの方が好きだな。
苦言は、全く両家の親が出てこない事。夏子の父は亡くなったと語られますが、その他の7人は?この人たちの親なら、推定70〜80代。遠くに住んでいる、老老介護である、もう亡くなった。幸夫しかいない状況に持って行くには、幾らでも絞れます。葬儀にも全く誰も顔を出さずに済ますのは、如何なものか?保育ママさん(託児所のようなもの)らしき存在も出てきますが、そんなマニアックなものを出すくらいなら、何故祖父母を出さないの?家庭や人生を描く時、良くも悪くも、親の存在抜きでは描けません。
いつまでも若々しくハンサムなモックン。それでいて、どこかとぼけた味わいがあるのが、彼の強みです。お蔭で近寄りがたくない。普通に演じれば、反感しか持たれない幸夫を、理解してあげたくなったのは、彼のお蔭です。子供と接する様子に、三児の父である素の本木雅弘が透けて見えたのも、微笑ましかったです。竹本ピストルは、しっかり演技しているのを、今回初めて観ました。いかつく強面ながら、最愛の妻の死に、怒り嘆き、途方にくれる姿が、とても共感を呼びます。教養も薄く、でもしっかり家族を愛しているのがわかる。この年頃の子供を置いて、妻が旅行に出るのを許すことで、どんなに優しい旦那さんかも、わかります。誰もが好きになる様な陽一を、好演しています。
デキスギ君みたいな真平を、デキスギ君の如く健心君も好演。この子、絶対伸びますよ。しっかり見守りたいな。玉季ちゃんは、ほぼ地のようなお芝居で、監督も自由にやらせたのかな、と思う程自然でした。二人とも、本当可愛かったです。
夫婦が永く暮らすと、あれは愛じゃない情なのだ、いや惰性で一緒にいるんだよ、とか、良く聞きます。そんな理屈も、昔は私も考えたりしました。でも大事なのは「別れていない」と言う事なんじゃないかな?長く暮らし過ぎて、大切だと思う感情も忘れちまった時に、突然訪れた妻の死。妻の置き土産が夫を救う姿に、あの一撃は、やっぱり戯言なんだよと、私は思うのです。
10月17日(月)
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