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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「母と暮せば」
他方町子はどうでしょう?自分だけ生き残った事にショックは大きかったものの、友人の母の言葉で、一生罪悪感を背負わなければと思い込む。多分世間にも、そういう厳しい目を感じていたはず。無意識に婚約者の「哀れな母親」を大っぴらに世話する事で、自分を責める世間の目から、隠れ蓑にしていたのでは?
家に上がる時の、スカートから覗く町子の若々しい膝頭が、私は妙にエロチックに感じました。それは美徳に隠された、町子の生々しい「女」ではなかったのか?そして婚約した同僚教師(浅野忠信)が、傷痍軍人であるのを知らしめる、片足がない事を強調するショット。町子にとって、隠れ蓑の対象が、伸子から婚約者に移ったのでは?仏壇を前に流す伸子の涙は、万感の戦後が一区切りついた、そんな涙ではなく、悔し涙だったと思います。町子は戦争に区切りをつけるのに、伸子の戦争は、まだ終わらないのです。
しかし、伸子を抱きしめる町子も、抱かれる伸子も、本心からだったと思います。お互いがお互いを助け合い、自分を奮い立たせ、生きる糧にしていた彼女たちも、立派な戦友であったと思います。戦争は戦場だけでは決してありません。
表の美徳や罪悪感を描く、それも良いと本当に思います。しかし私は、あまたの作品が描く美徳の心の裏の、市井の人々の本音を描いていたと思えてなりません。正に表裏一体。そしてあのラスト。伸子を苦しみから解放する唯一の方法だったのでしょう。こんな哀しい事がありますか?戦争がなければ、こんな愛憎や葛藤からは、遠い存在であったはずの、善良な人々。そこに監督は反戦の心の思いの丈を描いたのだと思いました。
監督に怒られちゃうかも?の感想です。しかし私には、戦後70年と言う今年最後を飾るに、ふさわしい作品でした。
12月27日(日)
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