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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「アリスのままで」
同じアルツハイマーの人及び家族に向けて、アリスがスピーチする場面が、この作品の一番のテーマでしょう。学者らしい病に対する分析の内容を、「聞く人はそんな事より、ママが何を感じているかを聞きたいのじゃないの?」と次女にダメだしされて、憤慨する彼女。しかしあのスピーチは、次女の助言を受けて内容を変えたものです。平易な言葉で、今の自分の境涯に対しての恐怖を語り、みっともなく滑稽に変化していく自分に対する恥ずかしさ。人生の全ての記憶を失くす哀しさ。しかしそれは病がさせる事であって、「自分」ではない。病を受け入れて嘆くのはなく、戦うのだと結んだ彼女のスピーチは、人類すべてに向けてのスピーチだと言っても過言ではない、感動的なスピーチでした。病を得て、自分の生死を見つめた監督の想いも、このスピーチに込められていたと思います。

他に心に残ったのは、長女出産でアリスが上手に赤ちゃんを抱いた場面です。彼女の生い立ちや、輝かしいキャリアは、病を得ても人生から無くなったのではありません。しかし全てを忘れても、赤ちゃんを愛しそうに抱く彼女から、彼女の人生で一番大切にしていたものは何だったのかを、見せられたようでした。このシーンは、アリスが最後に語る言葉に繋がると、私は思いました。回想シーンは全くないのに、彼女の人生が静かに浮かび上がる作りも良かったです。

誰でも一番なりたくない病気である認知症。辛い場面を見せられ続けて、それでも不思議と、絶対なりたくないと言う気持ちが薄らいでいるのです。「あるがまま」。それでいいのでしょう。私が認知症になったら、姥捨て山にでも捨てて欲しいですが、それは果たして本当に息子たちのためになるのか?この作品や自分の経験から、感じます。そういう意味では、同世代だけではなく、若い人にも観て欲しい作品です。

06月28日(日)
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