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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「そして父になる」
そしてみどりは、母親なのに何故わからなかったかのと、自分を責める。この様子にも泣かされました。あなたはちっとも悪くないのよ。母親だって、それも新米じゃないの、絶対わかりません。しかし良多は事実を知った時「やっぱりそうだったのか」と言い放ちます。最悪のセリフ。それも妻の前で。子育てを一手に妻に任せておいて、このセリフ。勝気な自分に似つかわしくない、優しい慶多に不満を持っていたのですね。のちに妻にこの言葉の事で逆襲された時、覚えていないと言う。本当に無自覚に失言する夫ほど、始末に悪いもんはないです(私もゴマンとしてきた怒り)。

良多は所謂勝ち組で、負けを知らない男だと描かれていましたが、そうではないと、後半から描かれます。「子供は二人共育てたい。金は渡すから」の良太の発言に激怒する斎木夫婦。当たり前です。しかし「金が誠意だと言ってたじゃないか」とポツリ。それは病院に対して言ったんです。第一妻には一言も相談なし。人の気持ちがわからなさ過ぎです。

良多は何不自由なく妻子を養っているのだから、責めるのは可哀想だと言う方もいるでしょう。しかし彼は妻子を幸せにする為に、仕事を頑張っているのではありません。自分のためなのです。彼の人生で学業や仕事が一番で、妻子はサイドストーリー。だから家庭を心配する上司(國村隼)が部署を変えをした事が、不満なのです。一見斎木家の方が幸せだと見えるのは、貧乏でも温かい家庭だよと言っているだけではなく、大黒柱である夫の、家庭へ温度差を浮き彫りにしていたと思います。

しかしこれこそ、彼の父親(夏八木勲)からのDNAみたいです。義母(風吹ジュン)と如才なく会話する兄(高橋和也)と比べ、未だにお母さんと言えない良多。育ててもらったのにです。その事はわかっているはずの義母ですが、優しく兄弟を包んでいます。大人になった今でも敬語で父と会話する兄弟、「お母さんは、ハズレくじを引いちゃいましたね」と冗談を言う兄から良多の育った家庭はそれなりに裕福で、良家だったように感じました。それが今は安アパートの暮らしです。暗に血に固執する良太の父の言葉を、否定していたのかも知れません。確かに「血は水よりも濃し」の父親の発言は正論です。しかしそればかりに捕われていては、一番大切なものを見逃すのじゃないでしょうか?

当時の看護師(中村ゆり)の登場と発言は、少し強引。彼女の義理の息子を登場させたかったからかと思いました。あぁ良多は、昔の自分に復讐されているんだなと感じます。彼の生い立ちを探っていく後半で、やっと良多の歪さがどこから来るのか、理解出来ました。

子供が生まれて、すぐに親になれるものではありません。自分のお腹で育てた母親より、父親の方が遅くに親になるのは、仕方ないのかも。うちの三男は予定外の子で、結婚10年目に生まれました。上二人とは8歳と7歳離れています。長男が「あいつ(三男)が生まれてなかったら、お母さん、お父さんに我慢出来ずに離婚していたと思う」と言われた時は、びっくりしました。図星だからです。うちの夫は子供が三人となって、やっと家庭を顧みるようになりました。長い10年でした。

良多は琉晴から父親としてダメ出しを喰らい、敗北感一杯だったでしょうね。何故あんな甲斐性なしの雄大に負けるのか、屈辱だったでしょう。それを経て、懸命に父親となろうとする良多。「そして父になった」彼が出した答えは、世間からはずれているけど、私はエールを送りたいと思います。ゆかりの言った「このままじゃ、ダメなのかしら?」のセリフを聞いた時、私は同調したので。

二宮慶多が激カワ。つぶらな瞳が、観客の心を掴むこと必死です。琉晴役の横升火玄も自然体で良かったのですが、群馬に住むと言う設定なのに、何故滋賀の子を起用?この年代で言葉の修正は難しいです。彼の関西弁が飛び出す度に、違和感が。これは火玄君に罪はなく、キャスティングの問題だと思います。頑張って演じている彼が可哀想になりました。


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09月28日(土)
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