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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「藁の楯 わらのたて」
しかし銘苅の怒りが沸点に達した時の慟哭に、私は意表を突かれました。「被害者は犯人への復讐を望んでいるのか?そうではないだろう」と語る彼。しかしそれは自分の想念である事。死者を想うのでななく自分が生きる為であると。一見正義めいた言葉ですが、白々しい思いを誰よりも抱いているのは、銘苅なのです。言ったはずのない言葉まで頭で捏造し、それが真実だと思い込もうとしている。復讐に苛まれる自分と対峙してして行くための、言い訳なのです。諦めるのでもなく、受け入れるのでもなく、赦す事もない。真実を感じるこの言葉も、とても重かった。形は違えど被害者遺族は、煉獄に身を置くような感情から、一生放たれる事はないのかと思うと、涙が出て仕方ありませんでした。

蜷川と対峙する銘苅は、また「被害者は復讐を望んでいるのか」と問いかけます。自分にも言い聞かせているのでしょう。「死者は何も語らない」と言う蜷川。正解は蜷川だと思いました。まだたくさんの人生の残っている銘苅、死が近い蜷川の違いがくっきり浮かぶシーンでした。たくさんの犠牲者と犯罪者を出したこの逃走劇。これが復讐の顛末なのだなと痛切な思いを抱き、銘苅の想いの貴さを感じずにはいられません。

大沢たかおは最近絶好調ですが、銘苅の誠実さ優秀さの中の強い芯を感じさせて、私は好演だったと思います。これから主演作ももっと増えそうです。松島菜々子の役は、原作では男性だとか。何故彼女が配役されたのか謎です。どうしても嘘っぽいキャスティングで、アクションの出来る人が良かったと感じました。アップ時にピンクの口紅がくっきりは如何なものか。あまり綺麗に撮られようとはしていなかったのに謎。ここは口紅なしでしょう。それなりに無難にこなしていたので、ちょっと残念でした。

藤原竜也は、イケメンと言うより美男子がぴったりの男性なので、小児性愛者の設定とのギャップを狙ったのでしょうか?彼の演技事態には文句はないのですが、上に書いたように、せっかく意表を突いたキャスティングなのですから、もう少し清丸のキャラを描き込んで欲しかったです。伊武雅刀はミスキャストと感じて観ていましたが、中小企業の社長の場面で、滋味深さを感じたので、結果的には良かったです。彼の話す福岡弁も温かさがありました。

神箸、清丸ともひとり暮らしの母を思うセリフが出ます。同じような生い立ちを感じる彼らが、何故刑事と犯罪者に別れてしまったのか。環境は大事だとも感じましたが、このセリフを出すなら、ここもひと工夫想起させるセリフがあればなと、思いました。

と、色々粗もありますが、私には銘苅の想いが全てを貫く作品でした。清丸は最後の最後までクズに描かれ、情けを見せない冷徹さは良かったと思います。原作とはだいぶ脚色しているようです。機会があれば原作も手に取りたいと思います。

04月28日(日)
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