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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「偽りなき者」
耐えているだけだったルーカスが、スーパーで反撃に出た時、街の人は頭がおかしくなったと思ったでしょう。私もそうかと思いました。でも違う。それはクリスマス・イブの集会に、教会へ行く直前の、高ぶった気持ちの現れだったのでしょう。思えば神の子キリストも、謂れ無き受難に合った人です。信仰心を示すこの場に堂々と出席する事は、ルーカスに取って最大の弁明だったのだと感じました。
私がマッツが好きなのは、知性があって誠実感があり、繊細な雰囲気である事です。かと言って線が細く弱々しいのではなく、男性的骨太感や包容力があり、セクシーです。その全てがルーカスに表現されていました。ハリウッド作品に出ることも多い彼ですが、今イチそんな特性や卓越した演技力を生かしているとは思えず、ちょっと大味な役柄ばかり。やはり彼は母国デンマークやヨーロッパの作品が似合うようです。今回も抑えた演技を要求される中、教会での賛美歌に涙する姿、怒りの頂点を表す気高さは、カンヌの主演男優賞にふさわしい堂々たるものでした。今までは「アフター・ウェディング」の彼が一番好きでしたが、今はこの作品が一番です。
物語はラスト近くで大きな転換を迎え、急速に救済されます。ルーカスとテオが向かい合う場面が秀逸。何転もしながら、また二人は親友に戻るのだと理解しました。テオの心の移り変わりは、男の友情は、女同士の友情とはまた違う絆があるのだと感じ、細やかな演出が冴えていました。
しかしラストのラスト、監督はまた謎をかけてきます。その前の和やかな様子に、女性たちがあまり加わらない事に、少し居心地の悪さを覚えたのは、私の気のせいだったのでしょうか?この作品の原題は「ハンター」。魔女狩のようにルーカスを追い詰めた町の住人たちは、ハンター。獲物はルーカスだったはず。獲物でなくなっても、狩りはするなと言うことでしょうか?新たな局面ですが、この受難にも、ルーカスはきっと立ち上がると信じています。
04月13日(土)
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