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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「世界にひとつのプレイブック」
感情の起伏が抑えられず、激情型のティファニー。二人は薬物治療を拒否していますが、むくむ、太る、やる気がなくなるなどの副作用を理由にしています。薬品名を出し盛り上がる二人に思わずクスクス。何度も「あなたと付き合いたい」とサインを出すティファニーに気づかぬパットは、デートの最中、「俺はあんたみたいな変態じゃないし。俺の方がず〜とまし」発言。これには場内一人で爆笑してしまいました。いやいや何を仰るパットさん。五十歩百歩か、あんたの方が上でっせ。これはよくある事で、自分を病気だと思っていない患者さんでも、他人が「おかしい」のはわかるのです。「あの人、変やで・・・」と、私も時々患者さんから聞くのですが、「いやいや、あんたの方がずっと変やし」とも言えず、「そうですかね〜、私はあんまり解かれへんわー」と答えたりしています(笑)。ティファニーはこの発言に激昂し、凄まじい反応をしますが、これも何かよくわかるので、笑ってしまいました。
この二人は、所謂「病識がない」状態です。適切なカウンセリングと薬物治療が必要なのに、それを拒否または嫌々通っている状態。精神科薬の副作用は、上記に書いた以外にも、便秘・胃痛・振戦などがあり、その副作用を抑えるため、またお薬が出されます。飲みたくない気持ちはとてもわかる。それでも服薬して欲しいのです。パットが自分の状態に気づき、早くに服薬していたら?浮気相手を半殺しになるまで痛めつけなかったと思います。それは「理性」です。精神疾患を患うと、不測の事態には感情失禁が起こり、収集がつかない事があり、他人から見れば、近寄りたくない危険な人に見えるはず。数々の副作用があっても、服薬は私は患者さんに、「人間らしさ」を取り戻させるものだと思っています。
実家に飾ってあった兄と自分の写真が、自分だけ外されいるのを確認するパット。父にとっては不肖の息子なのでしょう。しかし父は血の気が多く、アメフトのスタジアムで乱闘騒ぎを起こし、今じゃお出入り禁止。パットとの親子の絆を確認する手段が「懸け」とくりゃ、まぁ大した親父さんです。しかししみじみと、「お前とどうやって関われば良いのかわからない。父さんを許して欲しい」と言う素直な親心を聞くと、ホロホロしてしまいます。根は良い人なのです。
パットは「僕は父さんに似たんだ」と言います。確かに素因は受け継いでいるのでしょう。ならば何故父と息子は違うのか?パットの場合、環境が病気を誘発したのでしょう。よく精神病は遺伝だと言われます。高血圧、ガン、などは、皆大っぴらに「我が家の血筋」と言うのに、精神病の血筋は、ともすれば「汚い血」の様に言われ、あまり人には言えないものです。もちろん気持ちはすごくわかります。しかし、パットと父の違いを観て、その素因があっても発病するしないは、環境や出来事だと思ってもらえたら、と思うのです。だからパットは、ストレス満開のロニーを気遣うのです。
実は監督の息子さんは、やはり躁うつ病なのだとか。それで描写がリアルなのですね。そして監督もこの作品のデ・ニーロのように血の気が多く、ハリウッドではトラブルの多かったとか。そう思うと、この作品は、至らなかった父としての息子への詫び、ハリウッドへ「悔い改めます」の懺悔と感じるのです。正に負うた子に教えられ、と言う事でしょうか?
夫の死後会社の同僚全部と寝たため、解雇されたティファニー。夫の事故は自分のせいだと、責めていたと思います。手当たり次第と言うのは、夫婦の関係に水をさした原因がセックスだったからなのでしょう。とにかくコミュニケーションが不全で、一生懸命なのに、結果は相手を振り回しているだけのティファニー。そんな彼女のついた「嘘」は、日頃が激情の様子なので、パットを思いやる心が胸に染みます。アンジェリーナ・ジョリーがこの役を熱望していたそうですが、私は若いジェニファーが演じる事で、未熟な痛々しさと純粋さの両方を感じられたので、彼女が適任だと思いました。主要キャストは全てオスカー候補でしたが、作品を代表してと言う意味で、彼女が一番ふさわしいと思います。
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02月28日(木)
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