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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「大鹿村騒動記」
反対に善の好物の塩辛を嬉しそうに万引きする貴子に、「俺、塩辛は大嫌いなんだ・・・」と言う治には、哀愁がいっぱいです。遠慮がちに「貴ちゃん」と言い続ける治にとって、18年暮らしても貴子は「俺の女」ではなかったのでしょう。きっとずっと「間男」だったんですねぇ。善が瞬時に夫にもどるのとは大違い。治はずっと貴子が好きだったのでしょうが、貴子は出奔ありきで、目の前に居たのが自分だっただけ、その想いが拭いきれなかったのでしょう。なのでたった一度、「貴子!」と治が絶叫した場面は、彼女の安否が忍ばれる場面だったので、本当に好きだったんだなぁと、胸に残りました。岸辺一徳は、尊大な偉いさんの役柄より、私はこういう貧乏臭い男の真心を感じさせる役柄の方が好きです。
ただちょっと引っ掛かったのは、別の男と肌を合わせた妻を、いくら認知症と言えど、善が簡単に引き受けることです。男って、いくら夢にまで見た忘れられない女房だって、そんな簡単に割り切れるもんじゃないでしょう?葛藤が薄過ぎる気がしました。熟年の濡れ場なんかは見苦しいので要りませんが、寝ているときに、たまたま自分に触れてきた妻を払い除ける、そんなシーンのひとつでもあれば、ラストに手を握りあって眠る夫婦のシーンが、もっと生きたと思います。
サラっと描いているので少しコクが足らないのが残念ですが、たくさん詰め込んでも、それぞれに意味を持たせて、うんうんと頷かせてもらえます。歌舞伎の場面もふんだんにあり、腕のある役者さんたちは、さすが器用に演じていて見応えもありました。作り手が一番に楽しんでいるのではなく(三谷幸喜は往々にしてそんな気がする)、観客に楽しんでもらおう!を一番に考えて作っているなと感じ、私は十分堪能出来た作品です。
それにしても老女になって、男二人から想われる貴子は、女冥利につきますねぇ。羨ましいわ。私も間男作らなきゃ(嘘)。そして原田芳雄の一日も早い回復を祈っています。この作品、ヒットして欲しいな。
07月17日(日)
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