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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「キャタピラー」
そしてこの夫、妻に対して怒りを向けるばかりで、感謝も謝罪も描写するシーンがないのです。上に乗る妻に鬼畜だった自分を思い起こすなら、殴られながら抱かれていた妻の哀しみは、何故レイプされた中国女性とシンクロしないの?レイプされる中国女性と、自分の妻は変わらなかったのだと何故気付き、悔恨しないの?自分勝手なままです。自分の罪深さは、戦争より以前にあったのだ、その傲慢な心が戦争を肯定することになったのだと、私は夫の変貌が観たかったのです。

そしてラスト。最後まで夫は私の望む姿は見せてくれません。戦時下の国民感情とは、お国のため、天皇陛下のための御言葉の元、人間の持つ倫理観や道徳観、感情を、国を挙げて壮大なマインドコントロールした結果じゃなかったのでしょうか?

それを解くのは、極めてパーソナルな出来ごとでは無かったかと思います。ビジュアル的には衝撃的でも、夫の心の軌跡に変化が乏しく、観ているこっちに、訴える部分が少ないのです。妻が心の拠り所にしていた、何度も出てくる「お国のため」と言う言葉、煽情的に映す昭和天皇・皇后の写真や勲章より、夫の心情をもっと掘り下げる方が、反戦の意味が深くなったと思います。

出てくる度にいらいらした篠原勝之や、元ちとせの歌は要らなかったと私的には感じました。大量の戦時下のフィルムも。その分、病弱で徴兵にはじかれた久蔵の弟の苦悩や葛藤を、もっと描いた方が良かったかと思います。

でも寺島しのぶは本当に素晴らしい演技でした。水準以上には感じる作品でしたが、そのほとんどは彼女のお陰かも?夫婦ものとしては秀逸、反戦ものとしては、監督の自己満足が過ぎる作品であったように感じます。

08月19日(木)
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