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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「マイレージ、マイライフ」
映画はしかし、この後の描き方が秀逸です。ライアンの仕事や生活は何も変わらないのに、一皮むけたライアンの、複雑な心境が手に取るようにわかるのです。例えば飛行機の中で機長に、「あなたのお住まいは?」と聞かれたライアンは、「ここだ」と応えます。以前なら胸を張って答えたはずの言葉が、今では虚しいライアンの心を象徴する言葉になっていました。
冒頭リストラに「ローンはどうするんだ?子供の教育費は?」「妻に何ていえばいいんだ?」と、怒り狂い落胆していた人々がラスト再び出てきます。そしてどん底の苦しみから彼らを救ったのは、家族だったと口々に語ります。それはライアンと観客に向けた、今後のライアンの生き方のヒントなのでしょう。
クルーニー、ファーミガ、ケンドリックスは全てオスカーノミニーです。クルーニーは、セルフイメージを少々変化球っぽくした役柄がとてもマッチ。立派な大人なんだけど、どこかしら子供っぽさが抜けない彼の特性も生かせています。ケンドリックスは、嫌味に観えがちなナタリーを、実は純情で可愛い子なんだと、しっかり観客に感じさせる好演でした。
私が一番感心したのが、ヴェラ・ファーミガ。アレックスを演じて絶品でした。大胆で美しくて包容力があって。狡猾なのですが、決して食えない女ではありません。理想の人を語る中に、彼女の全てがあったのだと思いました。リストラされた人々やライアン同様、会社に翻弄されるまいとして、アレックスは自分で自分を作り上げたのでしょう。ライアンに電話を入れる姿は、私は彼女なりの誠意だと思いました。空港ではなく、ライアンが自宅に帰る電車の中で受けたというのが、そのことを表していると思います。
曖昧な着地ですが、ライアンがナタリーに向けた餞、マイレージの使い方を見ると、ちょっと嬉しい気がします。以前とは違う、厳しい表情で空港を見上げるライアンとは反対に、私には彼が地に足着いた、着実な人生を歩み始める一歩のような気がしました。
03月26日(金)
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