ID:10442
ケイケイの映画日記
by ケイケイ
[927709hit]
■「母なる証明」
そして障害者差別。トジュンは明らかな障害はありませんでしたが、少し発育に遅れがあるようです。そして母が面会を熱望した青年は、ダウン症であると思しき顔立ちでした。その青年に「あなた、お母さんはいるの?」と問いかける母に、私は号泣。
私の父親は二歳で父を、五歳で母を亡くしています。異母兄弟の兄たちは、幼児の頃生母と別れ、父の再婚相手である私の母に育てられましたが、私の母はあからさまに義理の子と実の子を区別する人でした。不仲だった父や兄たちを罵る母の気持ちだけに添っていた私の気持ちに変化が生じたのは、息子を生んでからです。自分の一生はこの子のためだけに生きてもいい、そう思う人が、父や兄たちにはいなかったのです。その哀しさに気付いた時、私のわだかまりも溶けて行きました。
三人の息子の母となり、この恐ろしいくらいの思い込みは、有り難い事に子供たちが成長するに連れ、私からは段々と薄れて行きました。この健康的な変化は、息子たちがそれなりに順調に育ってくれたおかげです。しかしトジュンの母はそうではないはず。夜眠る時は母の傍らに来て、乳房をまさぐるトジュンは、幼稚園の頃の私の息子たちにそっくりでした。ずっとずっと、この思いを抱いて生きてきたトジュンの母の息子への愛がほとばしる、哀しいセリフでした。
トジュンと母の我を忘れての錯乱した様子は、まるで同じ。まぎれもなく二人には同じ血が流れているのがわかります。母の落とした彼女が闇で治療している鍼の道具をそっと渡すトジュン。背徳感と同時に、母と息子は強い絆で結ばれているのだという、奇妙な幸福感が私の中で湧きあがります。あぁ怖い。母親って本当に罪深いわ。
キム・ヘジャはこの作品で初めて見ましたが、韓国の母と呼ばれる女優だそうで、常軌を逸したこの母が、本当にありふれた、どこにでもいる母親に見えるという、とても高度な演技力を見せてくれました。それが監督の狙いだったと思います。恥を晒し泣きわめき、罪を犯すトジュンの母。それでも彼女が素晴らしいと感じるのは、これが監督の母親と言うものへの思いでもあるのでしょう。ウォンビンは除隊後初めての出演だそうですが、アイドル俳優からの脱皮をはかっているのでしょう、自然な演技が上手く、適役でした。
その罪から解放されたくて、太腿に鍼を刺す母。こうしてトジュンの哀しく辛い記憶も封印してきたのでしょう。そして彼女は、これからトジュンの記憶がいつ蘇るか、また怯えながら暮らすのです。ひとときの刹那的な開放を表現するダンスシーンが哀しい余韻を残します。「殺人の追憶」のように、誰が観ても面白いというような作品ではありませんが、私にはポン・ジュノと言う監督のすごさを、一番感じた作品です。
11月01日(日)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る