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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「私の中のあなた」
そんな母親の業を身を持って感じたことのある私は、何故彼女がアナに一言の感謝も言わないのかも、わかるのです。いくら姉のために生んだといえ、お腹を痛めた健康体の我が子が、手術台に何度も上ることに心を痛めない母がいるのでしょか?出産までの経過がどんな理由にせよ、生めば同じ可愛い我が子です。アナに感謝や詫びの言葉を口にすれば、もうアナにはドナーは頼めなくなってしまう。弱い者のため家族が協力するのは当たり前のこと。強引にそう思い込まなければ、こんなことは続けられなかったと思います。母とは良き母であればあるほど、家族全員を黙らせてしまう、こんなにも圧倒的で哀しいのかと、痛感させられます。

ケイトが家族に犠牲を強いて闘病生活を続けることに、辛さを感じているのもよく描けています。そして当たり前のことですが、闘病というのは、やはり本人が一番辛いのだということも、彼女を通して理解出来ます。二歳の時の発病なので、人生のほとんどが病気だったケイト。ですが全てが病との闘いであったわけではありません。闘病生活一辺倒だけではなく、楽しい事や思春期の少女らしいロマンスや容姿の葛藤など、年齢にふさわしいケイトの人生があることをきちんと描く事で、暗くなりがちな内容を、爽やかなものにしています。



ケイトを演じるソフィアですが、最初はダコタ・ファニングが予定されていたとか。ダコタが坊主頭がNGで断り、ソフィアに回ってきたとか。結果は大正解。抗がん剤の副作用で、頭髪どころかまゆ毛やまつ毛まで抜け落ちる姿がほとんどですが、体当たりの演技で、とても好感が持てます。若手女優としてこの頑張りは、私は称賛に値すると思います。

当初は危惧していたキャメロンの母親ですが、ふたを開けてみれば、全編ほとんどノーメイクの大熱演で、闘病の娘より母親役の彼女に泣かされました。近年美貌の劣化が囁かれるキャメロンですが、これくらいの演技が出来れば、まだまだ安泰かと思われます。

他のキャストも全て良かったですが、私が心に残ったのは、娘を交通事故で亡くしたばかりの裁判官役のジョーン・キューザック。まだ娘を亡くした哀しみから完全に立ち直れず、時には動揺して涙する姿の人間らしい素直さが、とても胸を打ちます。哀しい時はいくらでも泣いていいのよ。強くある必要は、私はないと思います。

彼女の語る「死は恥ずべき事ではない」という言葉は、とても重いです。病には頑張れという言葉に共に、勝つのだという言葉も添えられます。若い死は負けなのでしょうか?病を得ると何故こうなったのか、人生を振り返り反省するとともに、その意味を見つめたり、プラス思考で奇跡を起こそうとしたり、様々です。この作品の中でも、そういったシーンがでてきますが、良かれと思って口出しするのは、皆普段は疎遠の親戚です。その無力さや白々しさは、壮絶な体験を経た家族へは、何の慰めにもならないと、監督は断罪しているように感じました。これは監督の経験なのかも。

裁判にはある秘密が隠されていました。私は早々に多分そうではないかとわかり、母を思う子の愛にも泣かされました。ケイトは母も自分も、そして家族も、病から解放されたかったのでしょう。子供とは親が思う以上に成長するものです。それがわからないのもまた、親の性だとこの作品は優しく教えてもくれます。難病の子供を抱えて、仕事のキャリアも捨て、人生の全てをケイトに捧げたサラ。しかしこれだけは言えるのは、ケイトを生まなかった人生より、難病のケイトを得たサラの人生の方が、何十倍も幸せだったと、私は思います。人生に何を求めるかは人それぞれ。豊かでもなく、充実してもいなく、価値もなくてもいい。ただ生きている、それが幸せなんだと、気付かせてくれる作品です。

10月11日(日)
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