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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「接吻」
自分からどんどん乖離していく秋生を繋ぎとめるべく、京子の取った行動は、予想出来るものでした。秋生からも長谷川からも指摘された事を実行すれば、秋生と一体化出来ると考えたのでしょう。そして「接吻」。つかの間、一人でない人生を味わった京子には、もう一人でいることは出来ないのです。「私のことは、放っておいて!」。この叫びは、私は彼女の心と相反するものだと感じます。それが長谷川に渡したプレゼントの、本当の意味だったと感じました。

とにかく小池栄子!素晴らしい!小池栄子と遠藤京子は、まるで同一人物のようにさえ感じ、完全にバラエティの彼女は消し去っています。左利きは元からなのでしょうか?この様子も、京子の寂しさと孤独を一層煽っているように感じました。この作品は、女優としての彼女の宝物になると思います。

トヨエツも冒頭の後ろ姿の歩き方から、彼も秋生そのものでした。年齢より浮ついた、そして拠り所のない人の歩き方でした。ほとんどセリフのない役でしたが、表情一つで、ほんの少しずつ変化する秋生の心を、さすがトヨエツ!と言う演技で好演していました。仲村トオルは、良い意味で木偶の坊っぽい人だと思っていたのですが、その個性がとても生かされていたと思います。

そして秋生の兄役の篠田三郎。弟と縁を切った人です。しかし本当に縁を切ったのなら、長谷川の面会も断ったはず。不肖の親兄弟と縁を切るということは、不満をかこちつつ付き合いをするより、心ある人には、ずっと辛いことです。自分を冷たい人間だという彼は、生涯自分を責めるでしょう。温厚で誠実そうな篠田三郎が演じる事で、的確にこのキャラが浮かび上がった気がします。

その他二つの「ハッピーバースデー」を歌う場面が、強烈に印象に残っています。一つは人生の終焉、一つは再生でしょうか?

人は救われたい時「恋」しても「愛されても」救われないのだと、私は思うのです。救われたければ、「愛さなければ」。京子の心を受け止めた、ラストの秋生の安らかな顔が強く心に残りました。愚直で誠実な長谷川によって、私はきっと京子は救われると思いたい。いや、きっと救わるはずです。

06月02日(月)
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