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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「ノーカントリー」
そして静かにシガーを追い詰めるベル。いつもなら年齢からの円熟味が、渋さに見えるジョーンズですが、今回は老いが目立ちました。もちろんそれは計算づくでしょう。仕事から身を引く直前、ベルは職務中に狙撃され、障害者になった元同僚を訪ねるシーンがあります。ベルの質問に対しての元同僚の答えは、慈悲深いとも、受け入れるとも、悟りとも取れます。しかし元同僚の「闘うこと」を辞めた姿には、外見の惨めさと裏腹の、精神的な崇高さを感じることで、救われます。この辺りの描写には、普遍的な人生の教えが込められていたと思います。

一見強烈な印象ですが、筋運びも語り口も滑らかで、コーエン兄弟独特のシニカルさや、乾いたユーモアも健在です。80年代を描きながら、良くも悪くも、あの時代があったから今があるのだと、過去と未来との繋がりにも言及した作りで、穴もツッコミも見当たらず、ほとんどパーフェクトな作りです。

しかしこれがオスカー作品賞とは、ちょっとびっくり。決してわかりにくい作品でもなく、完成度も相当高いとは思います。でもこういう観方が一様ではなく、そこに感慨はあっても、感動はない作品が作品賞ってのは、どうなんでしょ?私はこの作品を楽しめましたが、しかしこの作品がオスカーに相応しいかと言うと、答えは「否」。

大人から子供までとは言いませんが、たまにしか映画を観ない人でも、「あぁ良かった、感動した」と思わせる作品が、オスカーの名には相応しい気がします。年柄年中映画館に入り浸っている人たち(もちろん私も)で、わー、すんげぇ!と盛り上がる映画は、別でひっそり花咲く場所があると思うんです。いかがですか?

03月22日(土)
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