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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「ヴィーナス」
妻役のヴァネッサ・レッドグレープもとてもいいです。ざんばら髪に素顔に眼鏡、「体が痛くてもう死にたいわ」とは、うちの患者さんのお年寄りと全く同じなんで、思わずクスクス。浮気者だった自分を反省して、別居中とは言え、妻には尽くすモーリスにとって、彼女は恩人で母のような人のはず。妻もそれに応じて菩薩のような心で夫を包むのですが、昔のモーリスの作品がテレビ放送されると、共演女優を指し、「観て。この女が私たちの世界から、あなたを奪ったのよ」と、時々妻に戻ります。う〜ん、とってもとってもわかるわ、その気持ち。夫に妻としてないがしろにされたことは、うちの84歳の姑だって覚えてるもん。男女の仲は、年齢も国境も関係ないんですね。

この作品が成功したのは一にも二にも、モーリスにピーター・オトゥールを起用したことです。あの長身でクールでゴージャスだった彼にだって、老いの孤独・醜悪さ・黄昏はやってくるんです。それが人間は皆等しく老いていくのだと、観客に強く訴えかけてきます。性と生は、やはりリンクしているのでしょう。灰になるまで人間にはエロスが必要な模様。それを実に品よく作っているのが素晴らしい。若造りもしなくていい、ハツラツとしなくてもいい、ただ世間の変貌や若さを受け入れる土壌は、今から準備しておかなきゃと思った次第です。モーリスのおかげで、本当の「ヴィーナス」になったジェシーのラストカットが、このお話の後味を、とっても瑞々しいものにしてくれました。とても素敵な作品です。

11月10日(土)
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