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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「クワイエットルームにようこそ」
深く印象に残るのは、普通女性だけが背負う傷を、明日香の離婚した夫(塚本晋也)は、彼女と共有していたということです。明日香に残した手紙は、そういう意味だったと思います。これが夫婦関係継続中なら美談ですが、離婚した後相手は自殺。そのことが明日香を罪悪感の塊にしたんだと思います。そしてそのことに関係ない鉄雄が、明日香を理解しようとしながら、それが出来ずもてあまし、逃げたくなる気持ちも、丁寧に描いていて共感出来ます。

私が初めて内田有紀を観たのは、多分「ひとつ屋根の下」だったと思います。なんてきれいな骨格をした美少女かと、目を見張りました。不治の病を持つ役柄のせいか、清潔でボーイッシュな中に、寂しげな憂いを感じたものですが、この作品を観ると、それは彼女の持ち味であるようです。
今回も吐しゃく物を顔にへばりつかせたり、カテーテルで尿を採取される姿が映されたりしても、不潔感がありません。それどころか、この状況で必死で前向きになろうとする明日香を、こちらも必死で応援したくなるのです。それは内田有紀が、心を込めて明日香を演じたからでしょう。

クドカンも頼りなげで優柔不断ながら、心優しい鉄雄をとっても好演していました。お尻を出しながら、「死ななくて良かった〜〜〜」と号泣する姿は、真相が明らかにされていくうち、とても感動するシーンに脳内で変化していきます。あの手紙はちょっと男らしくないけど、男のひ弱さと善良さを両方表現出来ていて、妙にリアリティがありました。

コメディリリーフ的な看護師の平岩紙、鉄雄の弟子・妻夫木聡、患者の筒井真理子など上手く使っていたのに、肝心の主な脇役の患者西野の大竹しのぶがもう一つ。エキセントリックな演技で、精神科の患者を表現していましたが、これは過食症で精神を病んでいるというより、別の病名じゃないの?これではただの迷惑なおばさんで、痛々しい女性でなければならないところが、痛いおばさんにしか感じません。りょう演じる看護師も、この病棟で患者から命を失いそうになるほどの怪我をさせられながら、今も看護師を続けている理由がわからない。あれじゃただ並はずれた根性と、感情が超低温なだけな人に見えます。もう少し患者への愛が見えたら、良かったかと思います。

ゴスッコ風の摂食障害患者ミキ・蒼井優は、この役のためにかなり減量したそうですが、その甲斐あって、謎の多いミステリアスなミキを、最後まで上手くひっぱり、謎を辛さ哀しさに昇華させていました。さすが優ちゃん(彼女は私のお気に入り)。ただ入院患者の病名の大半が摂食障害関係とは、いかがなもんでしょうか?閉鎖病棟にしては、症状が軽く思えました。鬱や多重人格などは描きにくいし、明日香を作品の中心にするためには、しょうがなかったかもですが、この辺はもうひと工夫欲しかったところです。

重い内容を笑い飛ばしながら、かる〜く観られるのですが、観た後しっかり心が満腹になる作品です。世の中悩みのない人はいないでしょう。観た後、もうちょっと頑張ってみようかなぁと思わせる、そんな元気というより勇気の出る作品でした。お勧めです。

10月25日(木)
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