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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「酔いどれ詩人になるまえに」
ディロンも素晴らしいですが、ジャンを演じるリリ・テイラーがまたもう素晴らしい。彼女はメジャーからインディーズ作品まで幅広く出演していますが、光り輝くのは断然インディーズ作品の方。決して美人ではなく若くもない彼女が、この作品では何と愛らしいことか。ろくろく家事もせず、身なりは年も考えず常にノーブラのタンクトップ姿でミニスカート、考えることはセックスと飲むことだけ。どこから見てもロークラスの女なのですが、決して下品ではないのです。チナスキーが迎えに来た時の幼女のような無心で純粋な笑顔、チナスキーに日銭が入るのを宛てにして、彼女なりに精一杯お洒落する様子など、女の私でも可愛いと思うのですから、男性ならイチコロでしょう。
お金がなく無人の車から煙草を失敬して、嬉しそうにふかす二人。本当にバカなんですが、女としては、覚ありたいなぁとも思うのです。惚れた男が泥棒したのを咎めるのは、チナスキーみたいな男の女としては、失格ですよね。だって男は自分で変わりたいと思ってないんですから。もう一つ好きだったシーンは、ハイヒールが痛くて足を投げ出すジャンに、チナスキーが自分の履いていた靴を脱ぎ履かせ、自分は裸足で並んで歩くシーンです。私はこんな優しい男を観たことがありません。
下品に見えないのはチナスキーもいっしょ。ディロンのなりきった役作りと監督ベント・ハーメルのチナスキーへの愛もあるでしょうが、演出でそこかしこ工夫していました。まず家が古くても片付いている。普通ああいう人の家は、足の踏み場もないほど汚いはずです。チナスキーもジャンも、酒や煙草には際限がありませんが、決してドラッグには手を出しません。ジャンもチナスキーと上手くいかない時、人肌恋しくて他の男と寝ますが、体を売るわけではありません。車から煙草を失敬しても、お金には手を出さない。そういうギリギリのところで尊厳を守っているので、二日酔いの朝、二人で代わる代わるトイレで吐いても、ユーモラスに思えるのです。
チナスキーの両親が出てきますが、厳格な父、優しい母です。こんなろくでなしで理解不能な息子に育つなど、実直な彼らの人生の汚点かも。しかしこんなしっかりした親を持つからこそ、息子は安心して破天荒に、「勝手に生きて」これたのだと思います。久しぶりに顔を見せる放蕩息子に、何も言わず笑顔で手料理をふるまうお母さんが、印象的でした。この母あっては、息子は警察沙汰は起こせませんよね
そして何より飲んだくれている時のチナスキーは、本当にまったりと幸せそうなのだなぁ。私は全くお酒が飲めず、いつも宴会ではつまらないのですが、この作品を観て、やっぱりこれは人生の痛恨の極みかもと感じました。
愛すべきろくでなし男を、シニカルやクールにではなく、悪臭ではない人間臭さを散りばめながら、暖かいユーモアとペーソスを滲ませて描いた秀作でした。私は大好きな作品です。これがブコウスキーの世界なら、絶対何か読まなくちゃ。マリサ・トメイもすっかり老けちゃったけど、とってもいい味で出演しています。
09月26日(水)
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