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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「バベル」
しかし子供達を家に届けるため、飲酒運転のサンチャゴが検問に捕まりそうになったことから、このお話も暗転します。アメリアは不法滞在者だったのです。警官をまくため、サンチャゴに砂漠に置き去りにされたアメリアが、必死で助けを求めたのは、子供達を助けたかったから。しかしこのことから彼女は不法滞在がばれて、メキシコへ強制送還されます。決して良いことではありませんが、善良に暮らしデビーとマイクを赤ちゃんの時から世話していた人です。元はといえば、事故が原因でアメリアの予定を狂わせたリチャードにも責任はあります。サンチャゴが言う「子供を連れてくるから悪いんだ!」と叫ぶのは、確かにそうなのです。

なのに今まで誠心誠意働いていたアメリアへの情けはなく、強制送還に同意。知っていて雇った方は罪には問われないのでしょうか?金なら渡すからと言ったリチャードは、息子の結婚式に行かれなくても金を出せば済むと思う傲慢さです。そういうくらいの人間だと、アメリアを見下げていたのではないか?それはモロッコで、彼等夫婦のために懸命に力を貸した通訳にも、お金で感謝を渡す場面でも現れています。お金を受け取らない通訳。自国で起こったこの事件に、彼なりに償いたいのでしょう。人の真心はお金では買えません。それを礼を尽くすのではなくお金でしか表現出来ないリチャード。リチャード=アメリカを表しているんでしょうか?

日本パートはもう・・・。聾唖の少女の孤独と若き衝動を表すのに、あんな行動ばっかりで表現されると、少々げんなりします。彼女を聾唖の設定にしたのは、より孤立感を表現したいためかと思いますが、若さゆえの孤独や激情は、聾唖者でなくても表現出来るのでは?菊地凛子の陰毛と裸のオンパレードは、聾唖であることに起因するとするのは、ちょっと扇情的過ぎる気がします。

私が気になったのは、刑事に渡したチエコの手紙。私は彼女の母親の自殺の原因が書いてある気がします。この父(役所公司)と娘は、近親相姦だったんじゃないかと。母はそれを知り自殺をしたのかと想像しました。障害者の娘を置いて母親が自殺するの考えられないし、「お母さんは私の話を聞いてくれた」と、父に訴える様子から、母子の間は良好だった様に感じます。夫婦間での原因を匂わす場面もありません。しかしチエコがあの男、この男、誰でもいいから誘う様子は、孤独を埋めるのではなく、父以外の男に抱いてもらって、父の匂いを自分の体から消したいためかと感じました。じゃないと、幾らなんでもあのエキセントリックな様子は説明がつきませんし、普通裸でベランダに立ち尽くす娘を、びっくりもしないで抱きしめる父親なんて、ありえませんから。彼女の怒りの矛先は、自分自身だったのじゃないかと思います。

上記のように、私なりの解釈は出来るのですが(当たっているかどうかは不明)、だからどうしたというのが実感です。格段胸に響くものもなし、感慨も残りません。私には縁の薄い作品のようです。隣は聾唖のカップルが座ってらっしゃいましたが、どういう感想をもたれたか聞きたかった(筆談したかった)のですが、エンディング前で席を立たれたので、叶いませんでした。一番印象的だったのは、アメリアの語る「私は悪い人ではないわ。ただ愚かだっただけ」という言葉です。これはすんなり心に入る言葉ではないかと思います。

05月02日(水)
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