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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」
オカンはオトンが好きなのです。オトンだってわざわざ九州から死期の間近い妻を見舞う情もある。思うに、この規格外の夫の側に居ては、遠からず夫を憎んでしまう、それがいやでオカンは実家に帰ってしまったんではないでしょうか?オカンは夫に添えなかった分、オトンの分まで雅也に愛を注いだのではなかったか?それが執着や依存の愛ではなく、正しい母としての愛を息子に注いだ秘密ではなかったかと、感じました。
東京で雅也と暮らすようになると、自慢の手料理と母性とで、たちまちま息子の友人たちと仲良くなっていくオカン。母といえば、やはりおいしい御飯なのですね。この描写には、東京は地方から来た人が多いのだろうと感じました。
東京タワーが見えるベッドからの闘病から死までの描写は、本当にありふれた、親子の今生の別れを淡々と静かに描いているだけなのですが、とにかく泣けます。死期の近い親を看病するのは、子供にとって本当に辛いものがあります。しかし辛いのだけれど、死ぬという実感もありません。覚悟はとうに出来ているのに、もしかして奇跡が起こり治るのじゃないか。だって私のお母ちゃんなんだもの。心の片隅にその思いを抱きながら、雅也もオカンを見舞っているのです。
臨終のオカンの髪を撫で「よう頑張った」と泣き、オカンの遺体に添い寝し、葬儀では喪主の挨拶も出来ないほど泣き崩れる雅也。オカンは「私は結婚には失敗したが、あなたのような優しい息子を持って幸せだった」の手紙を残しますが、母の死にこれほど号泣する雅也も、可哀想ではなくやはり幸せなのです。私は大なり小なり男の人はマザコンだと思っています。それでいいと思っています。ありったけの愛情を私に示す幼い息子たちを、私が夢中で愛した育てていた昔、ふと母親のいない男の子とは、何と可哀想なのだろうかと思いました。父は幼い時に実母を亡くしています。その思いが、破天荒で嫌いだった父を理解させてもくれました。私が何の見返りも期待せず、誰かのために喜んで生きたのは、後にも先にもこの子たちだけです(ごめんよ夫)。オカンだって、喜んで雅也のために生きたのでしょう。だから申し訳なかったとは、思わなくていいのよ。
キャストは皆とても良かったです。内田也哉子は、決して上手くはないですが、明るくとぼけた雰囲気と苦労の滲まない品の良さが、オカンの技量の大きさを表していて、存在感がありました。樹木希林は、自分の境遇と似たオカンを、いつも通りの自然体な好演で涙を誘います。思えばこの人は怪女優に位地する人だったのに、今や出て来るだけで画面が上等に観えます。オダギリジョーも熱演する場面も少ない作品でしたが、良きマザコン息子ぶりに泣かせてもらいました。一番秀逸だったのは、オトンの小林薫。彼一人だけ最初から交替せずに演じていますが、理解されにくい愛すべきオトンの魅力を演じて、とても説得力があります。この人は不思議な人で、もっさりしているのに50代半ばの今も、若い子も蹴散らす男としての魅力があって、私は好きな俳優です。
奇しくもこの作品を観た14日は、長男の23歳の誕生日。当日は友人に祝ってもらうとかで、我が家でのお祝いは一日遅れになりました。私は長男を早くに生んだので、日頃は「若すぎて可愛げがない」と悪態つかれ、こちらも「あんたが50歳の時、やっとお母さん72やで。末は老々介護やな」と憎まれ口で返す私ですが、この作品を観て里心がついたのか、この子のお誕生日に私が鯛の御頭つきを焼いて、お赤飯を炊くのはいつまでかしら?と思ってしまいました。でもいつまでも私がお赤飯炊いているのは、あんまり幸せじゃないのよね。オトンの言う、「男は若い時に家を出た方がええ」は、多分本当だと思います。
04月16日(月)
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