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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「さくらん」
日暮と誠治の道行きは、確かにあの桜の木に花が咲いたことがきっかけです。しかし日暮が誠治と一緒に逃げようと決心したのは、唯一自分の生まれ来なかった子を思いやってくれたのが、誠治だからのような気がします。「女郎が子供を産もうとする。そう思ってくれただけで子供は幸せさ」という政治の言葉は、女郎から生まれた彼に言われると、深く愛がこもって聞こえます。感謝はすれど愛のない相手の妻になる。誰彼なしに体を売っていた郭と違うのは、相手が夫だということだけだと、日暮は感じたのかも。誠治も良縁に縁付きながらの逃亡です。もちろん日暮のことが気にかかっていたはずですが、玉菊屋を継ぐということは、生まれた郭から一生出られないことを意味します。何度も出て来る水槽の金魚は、女郎だけではなく、誠治たち男衆もまた、所詮は女の体で飯を食っているわけで、金魚と同じということなのですね。

日暮の選んだ誠治は、彼女と関わった男たちの中で、一番長い付き合いなのに、体の関係がないのが印象的。その相手を選んだということは、女郎との決別を意味しているかと思いました。










ネタバレ終了。

土屋アンナは好演でした。しかし女郎さんの日常の肝の据わったアバズレぶりや、鼻っ柱の強さはとても良かったのですが、花魁の時の様子がどうもいただけません。ゴージャスな着物姿に負けないチャーミングな豪華さはあるのですが、花魁の優美さが出ていません。きよ葉の時はそれでも良かったですが、日暮となってからは、もうちょっと貫禄と品を出して欲しかったと思います。でも泣かせてくれたので、OKです。

対する先輩花魁の菅野美穂や木村佳乃は花魁の風情と女郎の裏の顔の落差を的確に演じてとても良かったです。特に菅野美穂の花魁姿の優美さ、閨での艶かしさ、心を氷のようにしなければ御職は張れない花魁の厳しさも感じさせて絶品。木村佳乃の清純な役やコミカルな役はお目にかかれど、こんな汚れ役&敵役は初めて観ましたが、こんな演技も出来るのかと感心。二人とも中堅女優としてこれからが勝負なので、頑張って欲しいです。

華やかに頑張る女優陣に比べ、男優陣は描きこみ不足です。市川左団次のご隠居も、どういう風に吉原一の遊び人なのかイマイチわかりませんし、永瀬正敏の高尾の間夫も、彼女が何故あんなに入れ込むのか説得力が薄いしです。椎名桔平の日暮の身請けびとも、なんでそんなにいいお武家さんなの?と言う感じで、あれなら遠藤憲一演じるバカ殿の方が説得力ありです。しかし難点はありますがタイプキャストというか、描きこみ不足は役者のキャラと演技で補っており、これもぎりぎり合格です。

良かったのは二人。惣次郎の成宮寛貴は、上品そうな清々しい美貌が、酷薄的な妖しさにも通じ、魅力的です。女郎が夢見るのに説得力がいっぱいでした。安藤政信は実直で誠実な誠治を好演。一番出演場面が多く、彼が一番女性客に好評だったと思います(私も〜)。

監督は演出家蜷川幸雄の娘さんで、写真家の蜷川美佳。初監督作でこんな豪華キャストが実現したのは、お父さんの七光りかな?私は大いに健闘していたと思います。こういう作品を観ると年齢を超えて、女同士っていいなぁとも感じます。ラスト野に咲く満開の花の中を走る二人の姿は、同じ明るい色彩でも、ゴージャスな人工美に彩られた吉原とは対照的でした。この辺も写真家としての監督の美意識が働いているのかも知れません。

03月13日(火)
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