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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「グエムル 漢江の怪物」
漢江にアメリカ軍医師の命令により、ホルムアルテヒドが流されたのは実話だそうで、アメリカに帰国した医師は、法による裁きはなかったとか。グエムルが出現したのは、このことが原因なのは明白で、グエムルによるウィルス感染のでっち上げなども描いているので、反米がテーマと受け取られているみたいですが、私はあまり感じませんでした。確かに事実を憎む感情は入っていますが、韓国人の恋人の反対を押し切ってグエムルに向かっていき、韓国人を助けようとしたのは、駐留の米兵でした。漢江に有害物質とわかっていて流したのも、ウィルスのでっち上げを知っていても、加担したのは他ならぬエリートに属する韓国人です。

カンドゥの訴えを調べもしないで却下する警察、国家権力を見捨てて自分たちでヒョンソを救うパク家の人々の姿は、監督の国に対する思いではないでしょうか?中間ら辺で、一度パク家の人々の手によって、グエムルが追い詰められる場面があるのですが、なんだ、こんな市井の人でここまで出来るのかよ、軍隊も警察も何してるんだろう?と脱力しますが、それこそ監督の狙いだと感じます。建前→反米、本音→自分の国が一番悪い、ではないでしょうか?

ナミルが大卒ニートというのも、学歴に異常なまで渇望する韓国の姿を皮肉っています。火炎瓶の作り方の上手さに、ナミルが学生運動に携わっていたのが忍ばれますが、結局今は酒びたりの無職です。運動にも挫折し、何のための大卒かわかりません。私は受験期の韓国の、パトカーが遅刻しそうな受験生を学校まで送るという異常な様子に、とても疑問があったのですが、この描写に監督も同じ思いを抱いていたのかと、ちょっと嬉しく思いました。

ヒョンソが希望の星、というのは、観る前の荒筋で知っていました。しかし明るく素直な良い子ですが、ヒョンソが才媛だとか芸術的な才能があるとの描写はありません。何故平凡なヒョンソが希望の星なのか?

それはこの家族に母や主婦がいないからです。母親は一家の太陽、そう表現されることの多い、家庭を縁の下から持ち上げる存在です。妻のいない、母のいない寂しさ侘しさを、パク家の人々は心からヒョンソを愛するということで、埋めて来たのだと思います。与えられて癒されるのではなく、与えることで癒す道を選んだのだと思います。

一身に愛を浴びたヒョンソが、同じ捕らわれの幼児を最後まで守ろうとする確かな母性が、それを正しいと証明しています。「脱出出来たら何が食べたい?順番に考えよう」と幼児を慰めるヒョンソ。母親が一番子供に気にかけるのは、お腹をすかしていないかです。まだ中学生の子が放つ母の光りに、ヒョンソが一家の希望の星だというのが、すごく納得出来ました。

ダメ親父とわかっているのに、ヒョンソが一番に助けを求めたのは、父のガンドゥでした。どんなに情けない格好でも、娘を救おうとするガンドゥ。普段はバカにしたりいがみあっても、世間の誰より兄を息子を信じる兄弟と父。最終的には必ず一家団結する姿は、韓国も最近は変わりつつあるのでしょう、古来からのあるべき理想を映したのだと思います。それを眉目秀麗な才人一家ではなく、美男美女の一人も居ない、欠点だらけの家族で描いたところに、ポン・ジュノらしさが現れています。


ここからは絶対観た後!!!














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09月04日(月)
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