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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」
隙を見て逃げ出すマイクをいつでも掴まえらるのに、寄り添うように監視するピート。必死で逃げ回るマイクを映す自然の風景は、マイクの心とは裏腹、彼を厳しくも優しく包んでいるような美しさです。これはマイクに何かを伝えたいピートの心なのかと感じました。道中で出会う様々な出来事に、いつしか心が洗われていくマイク。ピートに横柄な口を利いていたマイクが、段々ピートに口答えしなくなり、最後には「yes,sir」と敬語まで使います。その過程も心の移り変わりも、とても説得力がありました。

メルキアデスの故郷ヒメネスは存在せず、写真で見せられた妻子も、彼の本当の妻子ではありませんでした。騙されたんだというマイクですが、私もピート同様、そうは思いません。故郷からも遠く離れ、誰一人知らないアメリカで暮らすメルキアデスには、自分を見失わないために心の拠り所が必要だったのです。アメリカに住む彼には、たとえ写真のだけでも真実の心の故郷、心の妻子だったのではないでしょうか?人種のるつぼと言われるアメリカですが、マイノリティがアメリカで生活することの辛さ侘しさが伺われます。

もう一人印象的だったのがダイナーの主人ボブの妻レイチェル。結婚して12年とは、夫婦の年齢からして浅いように思いますし、夫と年齢差もあるようでした。何か訳ありでこの田舎にたどり着いたのでしょうか?浮気を繰り返しながら、ボブを愛している、ボブは特別との言葉は、私には自分を真っ当な生活に引き上げてくれた恩人、と聞こえました。かつてはルー・アンと同じ悩みを抱えた彼女は、夫以外との男のセックスで女であることを確認し、心の均衡を保っていたのでしょうか。あばずれながら、ピートのプロポーズを断り涙する姿に、女としての慎みは持ち合わせている人だと、じーんときました。

ピートとマイクの道行きで出会う盲目の老人も、人生の無常感を表していて、挿入するお話として効果的でした。埃まみれでの道中、ハエや蟻のたかる死体の描写など不潔な場面も多いのに、心の気高さ、男として生きるのに必要な力、誇りなどを強く感じ、私が好きなペキンパー作品に通じるものがありました。ペキンパーを観ると、やっぱり生まれるなら男だよと、いつも強く感じる私ですが、この作品でも同じことを感じました。男の人は立てて、ピートのような男力を発揮してもらいましょう。

05月04日(木)
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