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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「スタンドアップ」
しかしこの聡明な監督は、男性の演出にも目配せが効いています。女性鉱婦たちのまとめ役グローリーの夫カイル(ショーン・ビーン)は穏やかな優しい人で、妻の友人であるジョージーの人格を尊重して接します。実は私が一番大泣きしたのは、ジョージーの息子サミーが母を憎むのを、カイルが大人としてではなく、「友人として」サミーの心を尊重しながら諭すシーンです。優しい夫ぶりとともに、彼の人柄が表れていました。そして訴訟を起こすジョージーの弁護士を務めるビル(ウッディ・ハレルソン)しかり。最初流れに身を任せるようジョージーに語る彼ですが、彼女に触発されたように、昔の正義感の強かった清廉な自分を取り戻し彼女を支える姿に、とても嬉しくなりました。他も女性たちを助けたいのに、仲間はずれが怖くて実行出来ない男性を描くなど、決して男性全てを紛糾しているわけではありませんでした。同じく女性監督コリーヌ・セローの「女はみんな生きている」では、出てくる男がアホかバカか悪党ばかりで、そのため共感出来きれずに終わりましたが、ここがカーロの語る「女性を描いたのではない。人間を描いたのだ」という部分でしょう。

しかしちょこっとツッコミもあり。
***************以下ネタばれ(後にも文章あり)












法廷でサミーは高校時代の教師との間で出来た子だと暴露されます。これはレイプなのですが、会社側はジョージーが昔から早熟でふしだらだと印象付けたいのですが、たとえレイプの目撃証言がないにしろ、普通生徒に誘惑されようが、手を出す教師が悪いのではないでしょうか?コイツは「元教師」と紹介されていたので、他にも叩けば埃が出るだろうし、辞めちゃったのはそのせいでは?当時の教え子に聞いて回ってもしかりです。これを会社側の隠し玉にするには無理があります。普通あれくらいの大規模の会社の専任弁護士であれば、それくらいわかるはず。

これは鉱山の同僚ボビーの「寝返り」証言で勝利に持って行きかったから?この寝返りにしても、説得力が薄く感じました。そしてジョージーの父の娘への急変にも戸惑います。妻(シシー・スペイセク)の置手紙に鍵がある演出ですが、それ以前に彼だって口とは裏腹、内心は娘可愛さと封建的な考え方との間で葛藤があったはず。その辺の演出が薄いので、娘をかばう組合でのあの演説も、父親ならもっと早くかばえ、おい!と思い、イマイチ盛り上がりませんでした。










***************ネタバレ終わり***************

と、かように訴訟が始まってからの展開に多少疑問があるのですが、これは大変心に響く作品であるがための欲であると、ご理解いただきたいです。この作品には私は惚れました。会社側の弁護士が女性なのは、ありゃー皮肉でした。原題は「NORTH COUNTRY」。しかし邦題の「スタンドアップ」の方が意味が深く、この作品に合っているように思います。

シャーリーズ・セロンは、息子との関係に悩む姿、鉱山での気の張った様子、心から信頼し合うグローリーとカイルを見て寂しさを滲ます表情など、本当に上手かったです。ハリウッドでは美人のブロンドは別の意味で偏見の対象ですが、「モンスター」に続き、ただの美人女優で終わるもんかの心意気が伝わり、ジョージーとかぶります。キャストもスペイセク、マクドーマンドのオスカー女優、ビーン、ハレルソン(二人とも大好き。誠実な男性役なんかめったにない人達なので、すごく嬉しかった)など、深みはあるけど重くない演技巧者を集めたアンサンブルも良かったです。

グローリーの会社側や男性への態度は、男の世界へ飛び込んだパイオニアとしてのお手本のような感じでした。男の下卑た誘惑には毅然として接し、他は慎み深く相手を立てる。これは男女両方へ信頼される接し方でしょう。しかしその信頼は、彼女が「夫持ち」の女性であったことも一因していたはずです。独身女性、シングルマザーへの偏見が少しでもこの作品で減ることを祈りたいです。そしてどちらが勝るというのではなく、男性女性全てがお互い尊重できる世の中でありますように。

01月19日(木)
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