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ケイケイの映画日記
by ケイケイ
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■「トニー滝谷」
「あいつ死んだんですってね。あいつは大変だったでしょう。」と言う元彼に滝谷は、「そんなことはなかった。あいつと呼ぶのは止めてもらいたい」と言います。元彼は滝谷の後ろから「あんたはつまらない人だ。あんたの書くイラストみたいだ。」と罵声を浴びせます。英子は滝谷のつまらなさに賭けたのかと、その時私はハッとしました。私はつまらない男性が好きです。つまらないと言われる人は、真面目で誠実な人が多いです。そして元彼のような無礼な物言いもしない。彼女が期待したのは、自分の中の不安感を、この人なら払拭してくれると言うことだったのかと思いました。「彼女も深く滝谷を愛していた」というナレーションが物悲しいです。

滝谷は妻の死を受け入れるため、妻と体のサイズが同じ女性(りえ二役)を会社に雇い、膨大な妻の服を制服代わりに着ることを入社条件にします。その膨大な高価な服の海の中、女性は何故か泣いてしまいます。この涙がなんとなく理解出来ます。高価な洋服を買っても買っても満足出来ず、若くして亡くなってしまった持ち主の哀しさを、買ってくれた夫の愛に応えることの出来なかった無念さを、女性は感じてしまったのでしょう。

ラストは英子との日々が、滝谷にとって人生のドアを大きく広げてくれる出来事だったと感じさせます。以前に戻るのではなく、新たな一歩を踏み出そうとする彼に、背中を押してあげたい気分でした。

観る人を選ぶ作品かと思いますので、是非どうぞとは言えませんが、私は好きな作品です。想像力ではなく感受性で観る作品でしょうか?音楽は坂本龍一。耳障りは良かったですが、私には可もなく不可もなくでした。孤独と喪失と言うのは、古今東西よく映画の題材になりますが、こんな描き方も出来るのですね。人間にとって、この二つと向かい合うのは永遠のテーマなのだと、改めて思いました。

02月22日(火)
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